コラムVol.5【「頭を打った!」その時、どう対応すべきか?】
兵庫県サッカー協会 医科学委員会 コラム vol.5
「頭を打った!」その時、どう対応すべきか?
~見えないケガだからこそ。焦らず、ゆっくり治す勇気~
医科学委員会副委員長 医師 長井寛斗
みなさん、こんにちは。兵庫県サッカー協会医科学委員会副委員長で整形外科医の長井寛斗と申します。
サッカーは接触のあるスポーツですから、一生懸命プレーしていると、どうしても頭同士がゴツンとぶつかったり、地面に頭を打ったりすることがあります。打撲しただけなら問題はありませんが、なんか様子がおかしい、ふらついている、倒れてから起きてこないなど、いつもと違う違和感を抱いたら、それは脳振盪(のうしんとう)の可能性があります。
選手本人は「大丈夫!行ける!」と言うかもしれません。チームのために頑張りたい、その気持ちはとても素晴らしいものです。
でも、そんな時こそ、私たち大人や保護者、指導者や周りの方が「ちょっと待って」と冷静に止めてあげることが、その選手の長いサッカー人生を守ることにつながります。
今回は、見た目では分かりにくい「脳振盪(のうしんとう)」との上手な付き合い方についてお話しします。
■ 「頭の中」で何が起きているの?
頭を打った直後、コブができていなくても、頭の中では脳が強く揺さぶられています。
イメージとしては、「柔らかいお豆腐が、パックの中で揺れて少し崩れてしまった状態」です。
外見は元気そうに見えても、脳は一時的に「エネルギー切れ」を起こして、本来の力が発揮できない状態になっています。この状態で無理に運動を続けると、脳の回復が遅れてしまうのです。
■ 「迷ったら、ストップ」が合言葉
もし、頭を強く打ったり、少しでもふらついたりしている様子が見えたら、まずはプレーを止めて、練習や試合から離れさせてください。
選手はアドレナリンが出ているので、痛みを感じにくく、「やれます!」と言ってしまうことが多いです。でも、そこは大人の判断が必要です。
- 練習中なら: すぐに練習を中止し、ベンチで休ませてください。
- 試合中なら: 迷わず「選手交代」をお願いします。「あと少しで終わるから」と続けさせるのは禁物です。
「疑わしければ、出場させない」 これが、世界共通の選手の守り方です。その日はもう運動はせず、体を休めることが何よりの「治療」のスタートになります。
■ 緊急事態(レッドフラッグ)
以下の症状がある場合は、すぐに救急車を呼ぶ(または脳神経外科を受診する)ようにしてください。
・意識が戻らない、あるいは意識レベルが低下している
・激しい頭痛がある、または頭痛が悪化している
・繰り返し吐く(嘔吐)
・痙攣(けいれん)が起きている
・手足の痺れや麻痺がある
・視界が二重に見える、言葉がうまく出ない
・興奮状態になったり、異常な行動をとったりする
■ 迷ったら「脳神経外科」へ
ここが一番大切なポイントです。
足や膝などの痛みなら「整形外科」ですが、頭を打った時は「脳神経外科(のうしんけいげか)」を受診してください。
もし夜間や休日で病院が開いていない場合でも、吐き気や激しい頭痛がある時は、迷わず救急相談ダイヤル(#7119)や救急外来を頼ってください。
■ お家で様子を見るポイント
もし試合や練習中に頭を打って、少しでも「ふらつき」「頭痛」「気持ち悪さ」があったら、その日は運動を中止し、医師の診察を受けましょう。
お家に帰ってからも、以下の点に気をつけて見てあげてください。
当日はゆっくりと: テレビやスマホ、ゲームは脳を疲れさせるので、なるべく控えて静かに過ごしましょう。
変化に気づく: 「なんとなく元気がない」「いつもより怒りっぽい」「ぐったりしている」といった様子が見られたら、もう一度病院へ相談してください。
飲酒の禁止:脳の回復を妨げ、症状を悪化させるため厳禁です。
入浴・運転の制限:少なくとも受傷当日は控え、ふらつきや集中力の低下がないか確認してください。
安易な服薬への注意:痛み止め(アスピリンやイブプロフェンなど)は出血を助長する可能性があるため、自己判断で飲まず、医師の指示を仰いでください。
■ 脳振盪からの復帰は「階段をのぼるように」
「昨日は痛かったけど、今日は平気!」となっても、すぐに激しい練習に戻るのは少し早すぎます。
脳はとてもデリケートです。以下のように、階段を一段ずつのぼるように、様子を見ながら戻していきましょう。
一般的に、19歳未満の若年者は成人に比べてより慎重な管理が必要であり、復帰までにより長い期間をかけるべきだとされています。
まずは完全にお休み: 学校の生活も無理せず、脳をリラックスさせます。
軽い運動から: ウォーキングやジョギングなど、頭に響かない運動を一人で。
ボールを使って: パス練習など。まだヘディングや接触プレーはなしで。
みんなと練習: 医師のOKが出てから、ヘディングや接触プレーを解禁。
試合復帰!
※もし途中で頭痛などがぶり返したら、一つ前の段階に戻って休みましょう。焦りは禁物です。
■ 詳しい情報はJFAのサイトへ
日本サッカー協会(JFA)でも、選手の安全を守るための詳しいガイドラインを公開しています。「もっと詳しく知りたい」「復帰までの計画表が見たい」という方は、ぜひ一度ご覧ください。
JFA 脳振盪(脳しんとう)について
https://www.jfa.jp/medical/grass_roots_concussion.html
https://www.jfa.jp/medical/top_athlete_medical_concussion.html
■ 最後に
「頭を打ったら無理はしない」
これは、臆病なことではありません。自分の体を大切にできる、一流の選手の条件です。
もしグラウンドで頭を打った選手がいたら、「休むのも勇気だよ」と声をかけてあげてください。私たち医科学委員会も、選手の皆さんが万全の状態でサッカーを楽しめるよう、全力でバックアップしていきます。